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大熱波記念の散文詩

 
 
震える指先が乾いた土に触れる
この地上のありとあらゆるものを風化させていく風が、
私の頬を優しく撫で、背に生えた翼をなびかせる

傷の痛みは、今は歓喜を呼び起こし、したたる血の匂いは甘美であり、
今まさに己の肉体をもって知る“命”の感覚に、私は恐れ慄いた

体を支える彼の細い腕が、大地のごとく頼もしく感じられ、
私はその中で、たった今生まれたばかりの雛鳥のように、震えていた

“世界”になった彼はしかし、空でも、大地でも、風でもなく、
彼自身の腕で、私を包み込んだ

 
ああ、それにしても、なんという美しい空だ

かつて天に太陽があった時、
地平線から昇りまた没していくその瞬間の、時を止めたような空

世界は今も燃え続けている
罪人たちはこの辺獄で、熱のない業火に、永遠に焼かれ続ける

嘆きながらも、彼らはこの赤い空の美しさを讃え、
神は一層地上を醜くする

 
視界がぐにゃりと歪み、
目に映る全てのものが、溶け崩れ、混じり合った

自らもまた、その大きなうねりの中に呑み込まれて行くのを感じながら、私は安らかに目を閉じた

暗闇の中でも、彼は物言わず、ただその腕で私を抱いていた
いつまでも────

 
* * *

2013年の大熱波頃に書いた散文詩が見つかったので掲載。
この詩に対応する絵を投稿するつもりだったんですが、未完成でした。

  • 2016/05/13(金)
  • 考察&萌語り&SS