散文詩もどき×2
「天使虫」
<おわぁ><おわぁ>
天使虫どもが、鳴いている。
わたしの神経を逆撫でする声で、四六時中、
機嫌を損ねた赤ん坊のように、泣きわめいている。
しばしばわたしは、やつらを掴み取って、その首をひねり潰してやりたい衝動に駆られるが、
しかし、腕を上げるのさえ辛いこの体勢では、とうてい不可能なことだった。
<助けて><苦しい><助けて>
不意に頭の近くで「ぱたたっ、ぱたたっ」と空気を弾く音がして、
汚らわしい羽がわたしの頬をかすめていった。
その綿のような柔らかい感触に、虫唾が走る。
<おわぁぁ この家の主人は病気です>
やつらは、隙あらばわたしの体にとまり、好き勝手に這い回り出す。
さながら傷口に集る蝿のようだと思う。
わたしの傷口からやつらは生まれる。
わたしの痛みを抱えて飛び立って行く。
<おわぁ><こんばんは><おわぁ>
天使虫が鳴いている。
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タイトル無し
ぐちゃり、ぐちゃり。
異形に剣を振り下ろす。
ぼくの頭はとっくに考える事をやめている。
ぐちゃり、ぐちゃり、ぐちゃり。
目の前の塊がぴくりともしなくなるまで、
無我夢中で剣を振り下ろす。
血だまりの中から欠片が生まれる。
それに触れると、少しだけ元気が出た。
ぼくはいつもひどく疲れている。
手足は重く棒のようになり、どこもかしこも擦り切れている。
壊れかけの心臓は、不規則な鼓動を刻む。
異形の体液が染み付いたコートからは異臭がする。
この世界にはきれいな水などなくて、
水の代わりに、心臓から滴る血で喉を潤す。
空腹になれば、生肉にかぶりつく。
肉がなければ、骨を齧る。
肉食獣と何も変わらないぼく。
汚染された水の中に棲んでいる少女を思い浮かべる。
ぼくは彼女が羨ましい。
彼女は食べなくても生きていけるし、痛みや苦しみさえ感じないと言う。
自分もそうなれたらどんなにいいだろう。
何より、この罪悪感と使命から解放されたら、どんなに安らかな気持ちになれるだろう。
ぼくの体は罪を償うためだけにある。
だから神様はぼくから言葉を奪ったのだろうか。
ぼくの心は苦しむためだけにある。
だから神様はぼくから思い出を奪ったのだろうか。
そして、ああ、
ぼくの命の灯火は、あっけなく消えてしまう。
ある時は異形に食われ、
ある時は木っ端微塵に吹き飛び、
ある時は飢えて死ぬ。
暗闇の中、いつも人知れずぼくは死ぬ。
そしてまた、ぼくは生まれる。
いつ終わるとも知れない生を生きる。
お粗末さまでした。