自分も他人も愛せない人
以下長々とした語り
上級天使は、自分の姉さえも、本当の意味では、愛していなかったと思うんだよね。
ゲーム終盤での彼の告白は、それまで彼がしてきた事の割には純粋過ぎて、どこか白々しく感じた。
でも真に「姉のため」でなかったとしても、彼にとって姉の存在が重要であることに、変わりはないだろう。
なぜなら、それは彼の生きる意味だったから。
「愛は世界を救う」という言葉があるけど、仮にそれが真実だとすれば、
愛情それ自体を感じられない人間に救いはない。
愛を手に入れる事が人間の最大の幸福だとしたら、愛を感じられない人の幸福は何だろう。生きる目的は何だろう。
彼は人生に絶望するしかないのか。
上級天使はきっと、生きる目的が欲しかったんだ。
愛情という麻薬を取り払った、あまりに殺伐とした世界が見えていた彼には、
生きるために、それに代わるもっと強烈な麻薬が必要だった。
それが世界への「復讐」であり「憎しみ」だった。
そしてこれが、彼の狂気、バロックだった。
上級天使が最も恐れているのは、間違いなく、生きる意味や目的を見失うことだろう。
だから彼は、大熱波後の果てしなく続く無意味な苦痛に、気も狂わんばかりになっている。
ギリシア神話のシジフォスに自分を重ねるほどに。
最後の最後で、彼がそれを受け容れることができたという事は、どんな意味を持つのか。
それは、彼が世界を愛せるようになったという事じゃないだろうか。
全てではないかもしれない、ほんの少しだけかもしれないけれど、それでも最後に、上級天使はなにかを愛することができた。
どうしようもなく荒廃した世界でも、それを一部でも愛することができれば、生きる価値はあるのだ。
愛するものや、愛し方は、人それぞれで構わない。