上級天使は、
「あいつもこいつも許せない」と思っているうちに、いつのまにか、自分自身まで許せなくなってしまった人だと、思う。
そして、そこから更に突き進んで行っちゃった人だと思う。
超自我の働きがはんぱなく強いから、自分が自殺行為をしている事にも気付かずに、破滅に向かって、一直線に落ちて行ってしまった。
普通なら、他者の汚点・欠点は、ある程度許せるものだ。
でもそれは「ある程度」だったから、他者への嫌悪感より、愛着の方が勝って許せたのであって、
もし人格の形成期に、他者の汚い部分ばかりを、長期に渡って見せつけられていたら、
他者への嫌悪感は凄まじいものになり、やがて、恒久的な“憎しみ”に変わるだろう。
そのような感じで、上級天使も、あんな苛烈な性格になってしまったんじゃないかな、と思う。
けれども、やがて上級天使は、他ならぬ自分自身の中にも、「大嫌いな他者」に通じる汚点・欠点が存在する事を、知ってしまう。
彼はそれを恐怖し、過剰に抑圧する。存在しないものとして、無意識の中に封じ込めてしまう。
しかし、彼のそういった影の部分は、抑圧すればするほど強くなり、しかも、意識に知覚されないで、
(あるいは、歪んだ正義感にもとづいた正当性を与えられて)表に噴出する。
その頃の上級天使はすでに、歪んだ超自我に依存し過ぎて、自身の中にある矛盾に気付く洞察力が麻痺していた。
だから「世界を歪ませ破滅に導く」という対極的な行為すらも、「世界を救う行為」として正当化してしまった。
あるいは気付いていたのかもしれないけれど、今更やめられるものではなかった。
大熱波直前の彼は、精神的にも状況的にも、相当追い詰められていただろうし。
どれだけ頭の良い人でも、自分自身の事を正しく認識するのは困難だ。
正しい認識を妨げるコンプレックスがあれば尚の事。
上級天使は「自分は他人とは違う」というコンプレックスがあったからこそ、余計に「自分が正しい」と思い込んでしまったのだと思う。
そう考えると、大熱波後の世界で尚彼が人々を導こうとしているのは、とても滑稽で悲しい姿に見える。
世界が滅んだというのに、彼はまだ、自分を殺そうとする事をやめない。
12号がダァバールで死ぬ事で生まれ変わり、自分の生きていく世界を見つけたのとは、対照的だと思う。
以前にも似たような事を言ったけど、上級天使はそんな12号に、ものすごく嫉妬しているんじゃないかな。
「なぜ自ら死んだお前が生きて、生きようともがいている私が死ななくてはならないのか」と。
実際は反対なのに。