という、いつ書いたか分からないファイルを開いてみたら、そこそこまとまっていたので、ここに載せます。
腐向けSSです!時系列的には「終着地点」の少し前かな。
標本箱の蝶と、火に入る蛾
「せめて、ずっとここにいてくれないか」
わたしが情けない声でそう言うと、■■体目のクローンは、同じくらい弱々しい表情で困惑を示した。
記憶が上書きされなかったため、オリジナルが再び創造維持神と融合した事を知る由もない彼らは、
あれからもずっと神経塔にやって来る。
何百という異形を殺し、孤独と飢えに耐えしのびながら、ひたすら最下層を目指して下り続ける。
わたしのいるこの部屋へ辿り着く頃には、極度の疲労と異形に負わされた傷とで、息も絶え絶えになっている。
今回のクローンは足にひどい怪我を負い、ほとんど地べたを這うようにしてここまで辿り着いたようだ。
あの状態で異形の攻撃を掻い潜って、死なずにここまで来れた事は、奇跡としか言いようがない。
そんな彼に情が移ってしまったのだろうか・・・・・・、わたしは彼をここに引き止めておきたかった。
これから彼が迎える末路はあまりにも残酷だ。
既にオリジナルと融合を果たした創造維持神は、クローン(彼ら)を異分子として排除するだろう。
しかし彼は、わたしの願いには応えず、感覚球に手を伸ばした。
(おまえも行くのか、あの女の所へ・・・・・・)
例えここで真実を告げた所で、彼らの選ぶ道は変わらないだろう。
彼らにとっては、もはや、生死などどうでもよいのだから。
背中を通してわずかに感覚球が震えるのが分かり、■■番目のクローンは最下層へ消えた。
シミュレーションは成功したのか?わたしの助言は功を成したのか?
否。わたしはただ足掻いていただけだった。そうせねば気が済まないだけだった。
その結果として生まれた悲劇が、彼らだった。
初めこそわたしは彼らを憎んだが、今は愛しくてたまらない。
感覚球を流れる情報。それは、彼の死と誕生の知らせ。
この世界で一番愚かなのはお前だ、とわたしをせせら笑う声が、
どこからともなく聞こえてくるような気がした。
***
上級天使が好きなのは、大熱波後の、それもクローンの方の主人公じゃないかなぁ、と思っています。個人的に。
でも主人公は創造維持一筋なので、決して報われない想いです。
6日に投稿したイラストは、そんな中にひとつでも例外が起きてくれればいいなぁ、と願って描いたものでした。
私は本当に報われない恋(?)が好きだなぁ。